除隊直前の兵士死亡事件で 軍への批判高まる

0

男子に対して兵役義務のある台湾で7月3日、除隊直前だった兵士が熱中症により死亡した。基地内に多機能携帯電話を持ち込み、謹慎処分を受けていたこの兵士は、上官からの指示で高温の環境下での運動を強要され、死に至った。上下関係が絶対の軍内で、「やり過ぎ」とも思われる懲罰の結果発生した悲劇に、台湾社会には大きな衝撃が走った。また、隠蔽とも取れる軍部の対応や、処分の甘さに対して批判の声が高まっている。

 

事の発端は6月23日にさかのぼる。兵役中の兵士が、休暇を終え宿舎に戻った際、本来は持ち込みが禁止されている多機能携帯電話を所持していたことから、桃園県楊梅の施設で一週間の謹慎処分が下った。6月28日に施設に入った兵士は、予定通りであれば7月4日に謹慎処分が解かれることになっていた。ところが直前の7月3日、上官は腕立て伏せや、走りこみなどの室内運動を命令。兵士は途中、二度に渡って身体の不調や休憩を訴えるも中止される事はなく、その後呼吸困難、意識不明に陥ったため病院に搬送されたが、帰らぬ人となった。

 

この事件で特に問題視されているのが、「なぜ劣悪な環境下での運動を命じたのか」、「なぜ身体の不調を訴えた際に適切な措置がされなかったのか」と言う点である。事件当時、熱中症への警戒指数は「危険」に達していた。にもかかわらず、激しい運動を行なわせたのは、まさに殺人的行為である。また、運動を終えてうずくまった兵士に対して関心を払う上官もおらず、適切な治療が間に合わなかったと指摘する声もある。最終的に台北三軍総医院に搬送された際の体温は44℃に達しており、大量の内出血を引き起こした。兵士は容態が悪化し、手遅れになるまで周りから見捨てられたのだ。

 

このような異常とも取れる懲罰と無関心には、かつてこの兵士が軍部の内務体制を批判し、上官らの反発を招いたことが背景にあるとの報道がある。しかし、あってはならない悲劇に台湾社会は震撼。国民からの相次ぐ批判を受け、7月9日国防部が行なった定例記者会見の場で、陸軍総司令部呉有明副指令が兵士とその遺族に対して謝罪。管理、監督体制に不備があったことを認めた。国防部は11日と15日の二度に分けて関係者37人の処分を発表。15日には高華柱国防部長が国民に謝罪、辞任の意向を表明するも、馬英九総統と江宜樺行政院長は17日現在も留意している。

 

しかし、事件の真相はいまだにあやふやだ。10日には遺族に対して、施設内の監視カメラ4台に残された映像が提供された。しかし謹慎期間中の7月1日午後2時から3時20分までの映像が4台共に消失しており、この時間に何があったのかは明らかにされていない。また、兵士が倒れてから救急車が到着するのに42分かかっていること、病院に搬送される際にもサイレンが鳴らされず、時速20kmで運転が続けられたことにも疑問の声が上がっている。不可思議な現象と、軍部の怠慢、腐敗とも言える行為が次々と明らかとなり、国民からは不信感も高まっている。

 

兵士の遺族らは徹底した真相究明を求めている。それに対し国防部も全力を尽くすとしているが、事件発生から半月以上が経過した現在、先行きは不透明のままだ。閉鎖的な空間である軍部内で起きた事件。責任者を処分することでこのような悲劇が再発しないと言う保障はない。この兵士の尊い犠牲が、軍部の風紀、体質改善につながるきっかけになればと願わずにはいられない。