九州台湾商工会(頼玉汝会長)は6月9日、福岡市天神のナチュラリープラス会議室で「アジア進出ビジネスアライアンス・セミナー」を開催した。
講師は台湾貿易センター福岡事務所長の林淑惠氏で、約70人の聴衆を前に台湾の「新南向政策」を中心に説明し、その遂行に必要な日台の連携を訴えた。
講演に先立って主催者として挨拶した九州台湾商工会の頼玉汝会長は、まず平日の執務時間内にも拘らず、山口から沖縄までの広い地域から大勢の方々がセミナーに集まってくれたことに謝意を表した。
次いで、これからアジアビジネスを始めようと考えている方々には、同会が所属する世界台湾連合総会の70カ国、189支部の華僑パワーとのアライアンスをぜひ考えて欲しいと述べた。
講師の林淑惠氏は「新南向政策については自分もいま勉強中であるが・・・」と前置きしながらも、90枚ものスライドを使って「台湾経済・台日貿易の概況」から始まって「新南向政策」、「数字で読み解く台日アライアンス」、「台日企業連携による新南向政策対象市場開拓の可能性」まで、丁寧に説明を行った。
講演の冒頭では、両国の漁業協定、投資協定、租税協定、金融協力覚書の締結などの経済面での連携強化や航空便の新規開設・増便、観光ビザの免除などからもたらされた活発な人的交流、交流協会や亜東関係協会の名称に「日本」、「台湾」の文字が使われたことなどを受けて、日台関係はいま戦後最良とも言える状態にあること。台湾に投資した日本企業の80%以上が利益を出していることを述べた。
各論に入ってからは、台湾経済、台日貿易の概要を、ヒト(相互訪問)、モノ(輸出入)、カネ(投資額)の動きから説明し、どの側面をとっても日本と台湾が最高に緊密な状況にあることを説明した。
新南向政策については、中国に偏重してきた投資先をベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール等の東南アジア、インド、パキスタン、スリランカ等の南アジア、オーストラリア、ニュージーランド等のオセアニアまでの18カ国に拡大し、リスクを分散しながらこれらの国々の成長エネルギーを取り込んでいく狙いがあることを説明した。
このようなリスク分散、成長エネルギーの取込みは、すでに日本でも始まっており、2013年以降シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの6カ国への投資額合計が中国へのそれを上回っていることが示された。
また、新南向政策の柱として「貿易経済協力」、「人材交流」、「資源共有」、「地域連携」の4つを挙げ、この実現に向けて、以下のような背景を持ち、相互補完関係にある日本と台湾が連携することが望まれるとの見方を示した。
すなわち、日本側には「国内市場が成熟し、中小企業が海外に成長の場を求めている」こと。「微妙かつ複雑な日中関係のリスクを回避するため、東南アジアで新たな製造拠点や市場チャンスを求めている」こと。「華人圏販路を獲得したい」こと。「信頼できる海外事業のパートナーを探している」ことなどがあり、台湾側には「日本とは相互補完のベースとなる緊密な産業連携が確立している」こと。「両国関係が良好で観光、貿易経済交流が活発である」こと。「台湾には中国とのECFA等の協定や華人圏での優位性がある」こと。「台湾日本関係協会と日本台湾交流協会はすでに42のMOUを締結しておりwin-winの発展環境が確立している」ことなどである。
最後に日台両国の企業がアライアンス組んで台湾国内で成功した事例や、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどへの進出の例が紹介された。
講演の後、会場から熱心な質問があり、以下のように質疑応答が行われた。
Q:台湾の政権が国民党から民進党に変わったことで、中国との関係がぎくしゃくしているように思われる。今後中国とはどのようなスタンスで向き合うのか?
A:台湾政府としては、中国とこれまでと同じような交流を続けていきたいと思っている。しかし、ご指摘の通り台中間が現在微妙な関係にあることも事実である。台湾貿易センターは昨年まで中国大陸で年間7本の国際見本市を開催しており、一定の効果をあげ成熟期に入ったといえる。今後は中国大陸での見本市開催を民間業者が行うことになるだろう。民間企業レベルでは今後も密接なビジネス関係が続くことに変わりはないと思う。
Q:台湾に進出した日本企業の80%以上が利益を上げていると言うが、逆に失敗した例はないのか? また、あるとすればその原因は何か?
A どんな場合にも失敗はある。しかしアベレージで見ると台湾に進出した日本企業の多くは成功している。その理由の第一は台湾が日本に対して非常に友好的であることだ。次にいろいろな面で台湾人の感覚が日本人とよく似ているため成功しやすいと思う。
しかし成功した企業でも何も手を打たずに成功しているわけではない。経営方針をめぐって提携先と意見が合わず、パートナーチェンジしたことが成功につながった例もある。成功や失敗の理由はケースバイケースだと思うが、日台のアライアンスが成功する比率が高いのは事実である。
Q:新南向政策で欧米との関係は変化するか?
A:例えば台湾の輸出相手国の三位はアメリカで、十位はドイツである。輸入相手国にも三位にアメリカ、五位にドイツが入っている。今後もアメリカ、ヨーロッパとの関係を重視して続けていくことに変わりはない。新南向政策の対象国に対しては、これからのマーケットとして一層注力するということであり、台湾貿易センターはそのために今後140以上のイベントを計画している。対象国に対して既に様々なアドバンテージを持っている日本の企業とも連携してぜひ成果を上げたい。
Q:新南向政策は、台湾貿易センターの事業に変化をもたらすか?
A:これまでの仕事は変わること無く継続する。ただ新しい仕事が付け加わるので仕事量は増える。日台の企業連携にはさらに力を入れることになるだろう。
質疑応答の後、台北駐福岡経済文化辦事處の戎義俊處長(総領事)が挨拶に立ち、九州台湾商工会がこの講演会を主催したことを高く評価するとともに、林淑惠講師の話にあった通り、相互補完関係にある日台両国の企業がお互いの強みを持ち寄ることで新南向政策を成功に導くことを期待したいと述べた。
最後に沖縄から駆け付けた日本台湾商会連合総会・指導総会長の新垣旬子氏から林淑惠講師に来月の本国転任を祝して記念の盾が手渡され、講演会を締めくくった。